「え、でも……」

「大丈夫だから。早く帰って、ね?」

 本当にこんな状態の夕弥さんを、ほっとけるわけない。

 それなのに、ダメだと訴えられるように視線を向けられる。

 ……夕弥さんはどこまでも、優しい。優しすぎるくらい。

「何かあるのなら、いつでも話は聞きます。」

「ありがと。頼りになるね。」

 夕弥さんほどじゃない、とは言えなかった。

 口封じをされるように、強い語気が入っていたから。

 だからこれ以上は、突っ込んじゃいけないと分かって。

「絶対、無理しないでください!」

 帰り際にそう言って、剣道場を後にした。



「……はー、どこまで惚れさせれば気が済むんだろ。あの子は。」

 暑く、静かな剣道場内。

 夕弥さんがそう言った事を、私は知らない。