「リコ! なんて綺麗なんだ!」
「リュディ……く、くるしい」
「竜王様! リコ様のティアラが取れてしまいます!」


 リディアさんが有能な仕事ぶりで、私とリュディカを引き離してくれた。今日は大事な日で国民の前に出るんだから、ボサボサになるのは嫌だ。たとえそれが、愛する人に抱きしめられたという理由であっても。


「竜王様は、ちょっとあちらでお茶でも飲んで、落ち着いたほうがよろしいかと」


 やけに威圧感のあるシリルさんの声に、渋々リュディカはお茶を飲みに行った。きっと事前に何回も結婚式の進行を妨げるなと、注意されたんだろうな。淋しそうな背中に思わず声をかけようかと迷っていると、久しぶりに聞く声が耳に入ってきた。


「リコ様、本日はご結婚おめでとうございます」
「ルシアンさん!」


 シリルさんのお父さんの、ルシアンさんだ。ルシアンさんはあれから、水晶の守り人の役職に戻っている。今日も婚姻の儀は、ルシアンさんが執り行ってくれる。


「緊張されていますか? 何かわからないことがありましたら、言ってくださいね」
「ふふ。でも何回も練習しましたから、大丈夫だと思います」
「それなら、安心ですね。では儀式の間でお会いしましょう」


 そう言って奥の方に歩いていくルシアンさんの背中を見ていると、忘れていた「聞きたかったこと」を思い出した。