「そうよ! そのまま噛みちぎりなさい!」


 ヒューゴくんが私の腕に噛みついたと思ったのだろう。アビゲイル様は私たちの様子を、高笑いしながら見ている。すると私の耳元で小さなつぶやきが聞こえてきた。


『……リコ様。このまま聞いてください。ぼく、正気に戻りましたが、飛べないと思います。だからあの女は僕が食い止めるので、一人で逃げてもらえますか?』
「そ、そんなのできないよ……」
『行ってください!』


 ヒューゴくんはそう言うと、ドンと私を突き飛ばした。そしてくるりと私に背を向け、アビゲイル様に向かって突進していく。


「きゃあ! なんですの! この竜は!」
『早く行ってください!』


 もう行くしかない。私は転びそうになりながらも、走り始めた。しかしすぐに後ろからギャウウウと鳴き叫ぶヒューゴくんの声が聞こえる。


「待ちなさい!」


 あっという間にアビゲイル様に追いつかれ、私は前のめりに倒れ込む。そのまま髪の毛を引っ張られ、私の顔が上を向いた。その時だった。


『ヒュー! ヒュー!』


 小さな鳥が私たちの上を旋回している。あれは……あの鳥は。


 その瞬間、私の視界が真っ暗になった。