「すまないリディア、リコ様のお支度はもう済んでいたか?」
「はい、ちょうど終わったところです」


 シリルさんが申し訳なさそうに、こちらに声をかけてきた。実際にちょうどヘアセットまで終わったところで、鏡の中の私はおとぎ話に出てくるお姫様の姿だ。


(すてき……!)


 さっきまでの私はドレスを嫌がってはいたけれど、それはあくまで周囲の人とのトラブルを避けるためだ。子供の頃からプリンセスが出てくる物語が大好きだったので、いざ着てみるとワクワクが止まらない。


(だってこんな素敵なドレスが着れるのも、今日くらいだもん。明日からはリディアさんみたいにエプロンを着て働かなくちゃ!)


 私はドレスのスカートをほんの少しつまんで、左右にゆらゆらと揺らした。裾の刺繍は金糸と銀糸が使われていて、布が波打つたびにキラキラと光っている。


「けっこう似合ってるじゃないか」
「きゃっ!」


 その声に振り返ると、竜王が衝立の影から姿を現した。どうやら私が夢中でドレスを(ひるがえ)しているところを黙って見ていたようで、面白がるようにニヤニヤと笑っている。