「もうっ、お父様。お兄様もだけど、ナオの前で『愛する』をつけないでちょうだい。わたし、いい年をしているのよ」
「なにを言っているんだ、ハニー。おまえは、いつまで経ってもおれの愛する妹にかわりはない」
「『ハニー』もやめてちょうだい。そういうことは、恋人や婚約者や奥さんに言うことでしょう。それに、そういうことをわたしが八十のおばあさんになっても言うつもり?」
「もちろん。そうですよね、父上?」
「あー、さすがにその年齢では呼べないな」
「そうですよ。エルマが八十まで生きるとしたら、わたしたちは幾つになっているの?長生きをしすぎたら、世間様にご迷惑だわ」
「たしかにそうだな、ハニー。だけど、きみには長生きしてもらわないと」
「いやですわ、ロメオ。長生きするなら二人で一緒に、ですよ」
「あー、ごちそうさま」
「ほんとよね。いつまででも熱々なんだから」

 廊下をあるきつつ、侯爵一家は談笑している。

 ほんとうにいい家族ね。

 うちもわたし以外の三人は、こんな微笑ましい一家なんだけど。