……冷たい視線をむけた少女の名前をリュミエールは知らない。
 だが、そのきつい紫の瞳だけはよく覚えており……そんなことがあって以降、こういった人の集まる場所で誰かに話しかけることが恐ろしくて仕方なくなってしまった。

 しかし、これから王太子の妻として彼を支えてゆかなければならないのだから……もうそんな思いは克服して、無理にでも気丈に振る舞わなければならない。

(変わらないといけないんだわ……)

 リュミエールはオレンジ色の瞳を彷徨(さまよ)わせ、場内でなるべく少数で集っている人達を探した……。大勢に話しかけるのは、一人に話しかけるのの何倍も勇気が必要だから。

 だが彼女の目は、吸い寄せられるように一点で止まる……。

(なんて……綺麗な人)

 リュミエールが目を止めてしまうのも無理は無かった。

 その青年は、恐ろしいほど怜悧(れいり)な美貌を備えている。