それから、ミシェルは再び王太子宮に住むことになった。
 ミシェルの帰還を、使用人たちは大層喜んだ。ミシェルは無事に帰ってきただけでなく、なんと主人の気持ちを受け入れたのだという。ザキエルの今後は安泰だと、みな一様に安心していた。
 しかし、ただ一人ザキエルだけはまだ警戒していた。

「ミシェル。もう誤解はないな?」
「誤解?」
「俺の妻は、生涯ミシェルだけだ。他の女を娶るつもりはないし、妾や愛人を囲うつもりもない。子供ができても傍に居てほしいし、子育てが終わっても一緒に居たいし、子供ができなくても俺が君を手放すことはない。俺がこの世で一番愛しているのはミシェルで、他に優先する者など男を含めても誰も居ない、美しいと思うのもミシェルだけで、愛らしくて可憐だと思うのも――」

 矢継ぎ早に告げられる内容があまりに恥ずかしくて、ミシェルは慌てて両手でザキエルの口を塞いだ。そしてそのまま「どうせ塞ぐならこっちにしてくれ」と唇を奪われたミシェルは、しばらくザキエルから逃げ回った。恥ずかしさで爆発していたミシェルが憔悴したザキエルに気がついたのはそれから5日後。ミシェルが必死に謝ったところ、沢山の()()()をねだられて、彼女は「恋人は大変だ」と涙目だった。ザキエルは艶々満足そうにしていた。

 それから、ザキエルとミシェルは結婚した。
 純白のドレスに包まれた天使に、ザキエルが気絶しそうになり、周囲が蒼白になったのは言うまでもない。

 結婚したザキエルは、ミシェルの望みどおり、可能な限り彼女の傍にいた。生涯、妻にかしづき、大切に扱ったのである。
 ザキエルの傍に居られて幸せだったミシェルは、いつも微笑んでいた。笑顔を絶やさない王兄の妃として、彼女は国民の心にその存在を刻まれた。

 冷鉄魔王と呼ばれたザキエル。
 しかし、彼の隣にはいつも、微笑んでいる妻がいて、その仲睦まじく微笑ましい姿に、人々は段々と彼のことを冷鉄魔王とは呼ばなくなった。

 こうして、冷鉄魔王将軍の天敵として呼び出された田舎娘の力により、ザイラ王国から『冷鉄魔王』将軍は消え去った。

 悪しき魔法、禁術とされた聖女召喚は正しく機能し、珍しいことに、幸福な結果をもたらしたのである。







〜 終わり 〜