「方言を話す、ホワイトブロンドの髪に水色の瞳の娘で、最近見かけるようになったとのことです」


 ヒューバートの報告を聞きながら、ザキエルは該当の村まで馬を走らせる。

「ロッカ村であれば何度も訪ねていったというのにどういうことだ」
「村はずれに住んでいる家に、最近、急に娘が出入りするようになったそうです。その家の者たちは、親戚の娘だと言い張っているようですが、あまりに風貌がミシェル様に似ているということで、ロッカ村の『殿下と聖女をくっつけ隊』隊員No.87から緊急連絡が……」
「だからなんなんだそのお祭り騒ぎ感は!」

 動揺するザキエルではあったが、本当にミシェルがいるのであれば僥倖(ぎょうこう)だ。

「その女性は、なにか怪我をしていたりしないのか。立って歩けるのか、後遺症が残っていたりは」
「足と腕を包帯で巻いているようですが、立って歩くことはできているようです。隊員No.87も挨拶をしたと」
「……そうか」

 生きている。
 彼女が生きている。

 そう思うだけで、この1ヶ月の苦労が吹き飛ぶようだった。

 会いたい。
 けど、会わない方が。
 本当に、彼女なのだろうか。
 もし、違ったら。

 様々な思いがかけめぐり、引き裂けそうな心臓を無視して、ザキエルは馬を走らせる。
 そうして、ロッカ村に辿り着き、隊員No.87の案内を受け、ミシェルと思しき人がいるという家に辿り着いた。

「ザキエル殿下。こちらの家でございます!」

 隊員No.87だという彼女は、ロッカ村に住む16歳の女性で、ニーナといった。
 彼女の案内でその家を訪れたところ、あいにく、親戚の娘だという女性は外出しているとのことで、家の主人とその妻が迎えてくれた。

「それで。うちのシェリーに会いたいって?」

 警戒している様子の夫人は、震えながらも、ザキエルに睨みをきかせる。

 この家は村外れにあり、あまり村人との交流も深くないとのことで、夫婦は何度もロッカ村を訪れたザキエルと初対面だった。
 そして、ザキエルはあいも変わらず、魔法障壁布である真っ黒なローブをまとい深くフードをかぶっている。
 そんな彼が、血の色の瞳で眼光鋭く夫婦を見ているものだから、夫婦は二人とも蒼白な顔をしていた。

「そのとおりだ。私の知り合いである可能性が高い。ぜひお会いしたい」
「シェリーはうちの親戚の娘だよ! 王太子殿下と知り合いな訳ないさ!」
「それは会ってみないと分からないだろう」
「分かるね! あの子は田舎娘だ。あんたのような高貴なお方と知り合いなはずがない!」
「ちょっとおばさん! 殿下に対してなんて態度なのよ、不敬でしょう!」

 ザキエルに対して反抗的な態度の夫人に、ニーナは焦る。
 そんな様子を見て、側近のヒューバートが口を出した。

「奥様。一度、シェリーさんと会わせてはいただけませんか? 彼女が私たちの探している人物でないことを確認できれば、私達は立ち去りましょう」
「……だめだ」
「おいヘレン、お前……」
「だめだよあんた! だって、こいつらはあの子を連れていっちまおうとしているんだ。あの子は、うちの嫁になる予定なのに!」

「――嫁?」

 おどろおどろしいバリトンボイスで呟かれたそれに、一同はビクリと肩を震わせた。