「僕は真理の婚約者だよ。そんな不倫みたいなこと,しない」



(婚約者が何なの)

反発心に,顔の歪む真理。

(彼氏より規模が大きいだけの,彼氏よりずっと小さい名前だけのくせに)

きゅっと口がすぼむ。

泣きそうになる真理。

(どこか悔しくて,言いたいことはたくさんあって,それなのに,何も出せない)

(何をどう言っても,凪が傷つくような気がするから)

直感的に思う真理。

(あぁ,矛盾だらけだ)

静かな真理に,不安げな顔をする凪。

焦ったように,弁解するように近づく。



「真理は僕といるの,嫌? 今日だけだ…」

「ご飯食べよう,凪。私,お腹すいた」



(この話は,止めよう。嫌とかじゃなくて)

背を向ける真理。

(じゃあ,何が問題? 私は何が嫌?)

自問自答を繰り返す。

頑な真理に,凪が折れる。



「うん。そうだね」



ほっと息を吐く凪。

静かに声が響く。

また唇を噛む真理。

(凪,また遠慮した。私にだけ,また……)

いつも他者の視線から守ってくれる凪を思い出す。

(凪はもっとはっきり,人に迫る人なのに。私は……もう,小さい子供ではないのに)



「今日は,何しよっか」



気遣うように言う凪を,真理は見つめる。

("今日"は,明日までほんとに凪と2人だけなんだ)

ようやく理解し,ほわっと(うすく?)赤くなる真理。

食パンにジャム,そんな簡単な食事をすると,あとはもういつも通り。

ただ2人してごろごろと過ごす。

たまに話しかけてくる凪と,応える真理。

(何だ,いつも通り……緊張することなん……)

(緊張なんて,してないもん)

ソファーにダイブする真理。

クッションを抱き締める。

顔をあげる凪。