「どっちにしろ、伊織先輩には小西先輩っていう彼女がいるんだから無理だ潔く諦めろ」

「………。」

花壇のブロックの上によっと乗り上げた。
高さで言うと20センチぐらい、コンクリートで出来てるからさすがに腐ってるとかはない。

「聞いてるのか、椎葉?」

山田に背を向けて、ペットボトルの蓋を開けた。
紅茶を一口飲もうと思って、やっぱりやめて蓋を締めた。

「…これから私自分磨きいっぱいする」

少し上を向いて、空を見た。
寒いのに空は青くて、雲に見え隠れしている。

「可愛くなってキレイになって伊織先輩に好きって言われるようになりたい」

「…だから小西先輩いるっての」

小西先輩がいる限り、無理だってこともわかってる。

どれだけ磨いても勝てる気さえしなかった。

だからこんなことしても意味ないかもしれない。


そんな私が出来る事と言えばー…


「未来に行けたらいいのに」


未来へ望むことぐらい。


「きっと未来の私は可愛くて美人になってるはずだもん!」

「どんだけ自分に自信があるんだよ」

可愛くなってキレイになるだけじゃダメ、その上で私が出来る事ー…


「そしたら2人を別れさせて、付き合えるかも♡」


破局させた後に、彼女の座を奪うこと。


「バカかお前、それ以上の言葉が見付からねぇわ!」

「ば、バカって言った方がバカなんだから!」

なんてね?
そこまで思ってない。

…たぶん。

本気で言ったわけじゃないし、そりゃあちょっとぐらいは…
ちょっとだけそう思ったけど、思うくらいいじゃん。

心の中でぐらい思わせてよ。

それぐらいさせて、じゃないと私ー…

「「あっ」」

ぐるんっと勢いよく山田の方に振り返ろうとした。

そのせいで花壇のブロック上に乗ってた足がズルッと落ちた。

ブロックの高さ20センチ、すぐには体制を持ち直せなかった。

「椎葉…!」

あわてた山田が私の体を抱きかかえるように支えた。

だけど身長の5センチしか変わらない私たち、勢いもあって支えきれなかった。


「「!」」


ふにゅっと柔らかい感触が唇に当たる。

正直、初めてで一瞬何のことかわからなかった。

全部がスローモーションで消えていく。


え、これって…

今、私…


山田と?、




キスー…!?




「あっ」

その瞬間、ふわっと意識が途絶えた。

山田が私の名前を呼んでる声が響いていた。