今、優月に…って




言ったよね?



小西先輩のこと…


別れたんだとは思ってたけど、まだ会ってるってことなのかな。


でもなんで“私”に会ってほしいの…?


「なっちゃんは…会ったことないよね?」

「…っ、ないです」

その時の伊織先輩の表情はまるで探っているかのような、私を試しているように思えた。

ビー玉のような瞳で私を捉える。

目が逸らせない。

逸らしたら、全部暴かれるような気がして。

「…あのっ!」


ガチャンッ


またやってしまった、何度繰り返せば気が済むの。

何か言わなきゃと思った動揺が体に表れ、紅茶の入ったティーカップを倒してしまった。

「すみませんっ」

「なっちゃん、大丈夫?」

「夏!」

伊織先輩が台拭きを持ってきてくれて、山田が近くにあったティッシュで拭いてくれた。

たた慌てるだけでいつも何も出来ない私。

「なっちゃん濡れなかった?」

「あ、…ちょっと濡れちゃったんですけど、これくらい平気ですっ」

「手洗ってきたら?手にも紅茶がかかっちゃったでしょ、洗面所あっちだから」

「…すみません」

伊織先輩に言われて立ち上がる。

洗面所はこっちだよと言われ、紅茶の付いた手を洗いに行こうと…



入って来た時は気付かなかったんだ。



山田の背中ばかり見ていたから。 



この時初めて私の視界に飛び込んできた。



窓際に置かれた小西先輩の写真に。



「……っ」

その隣には色鮮やかな花たちが花瓶に生けてあった。

それはきっと伊織先輩がバイトする、Florist of dwarfs(フローリストオブドゥウォーフズ)の花。

額縁にキレイに飾られた写真の中の小西先輩は過去(いま)の私が見ている小西先輩と変わらなかった。

高校の制服を身に纏って優しく笑いかける。

“好きな子がいるんだよね、小西優月ちゃんって言うんだけど”

「この子が優月」

「え…」

伊織先輩が写真を手に持った。

「僕の大事な人なんだ」

愛しそうに見つめ、それでいてどこか切なく。

高校の制服がそれを教えてくれる。

きっと別れたのは何年も前、それでもずっと想い続けてる証拠。

「…そうなんですね」