「何がいいんだ?やっぱ無難にケーキか?」

「いいんじゃない?ケーキみんな好きじゃん」

「伊織先輩、ケーキ食うの?」

「えー…、食べるんじゃない?」

日曜日の午後、駅ビルの中に入った銘菓コーナーであれでもないこれでもないと手土産になるものを物色していた。


“よかったら今度、うちに来ない?なっちゃんも一緒に”

伊織先輩に言われて、伊織先輩に会いに。


「ケーキも種類多いからな、一番普通のショートケーキでいいかな」

「うん、それならきっと…あ!」

「ん、何?」

「紅茶に合うものがいいよ!伊織先輩紅茶が好きだから!」

こないだバタークッキー買ってたし、他の種類のクッキーとか焼き菓子がいいかも!
って、思い出したから言ったんだけど、めちゃくちゃ棒読みの返事が返って来た。

「へぇ」

「………。」

深い意味なんてなかったんだけど、思い付いちゃっただけで。

「じゃあ、それで」

ふいっと私から視線を逸らして背中を向けて歩き出す。

…別に深い意味なんて、ないのに。

てゆーかたぶん山田にとっても今の返事に深い意味なんてない。

ないんだよね。

「晴」

立ち止まったままだった私に山田が振り返る。

「はいっ」

「紅茶に合うものって何?俺わかんないんだけど」

「あ、えっとね!クッキーとかスコーンとかとにかくパッサパサのやつ!」

「…それで本当にいいのか?」

「こーゆうのがいいと思う!」

ちょうど目に入った焼き菓子の詰め合わせを指さした。フィナンシェとかマドレーヌが入った、これならいろいろ楽しめるし。

「ふーん、じゃあこれにするか」

「うん!絶対おいしい!」

駅ビルの中に入ったお店なんておしいとこしか入ってないブランドものだからね。

「…なぁ晴」

「ん?」

「あの花束って…伊織先輩にもらったのか?」

「え…」

“これはプレゼントだから”

「違うよ!あれは…っ、未来(こっち)で知り合った人で伊織先輩じゃない!」

なんだかムキになってしまって、変に思われたかな。
でも後ろめたさが先に出てしまった。

「お、おぅ…別に伊織先輩なら伊織先輩でいんだけどさ」

「…。」

「伊織先輩と会ってんのかなーって薄々は思ってたし」

「…ごめん」

そうだよね、未来(こっち)の私が伊織先輩には会わないでって言ってたけど、山田だってそう思ってるよね。

山田は優しいから、私の言うことを守ってあげようとするよね。

「いや、俺も…知ってて言わなかったから」

「…それって」

ぽんっと頭を撫でる。

目を合わせて、にこりと微笑んだ。

“…それって何を?”って聞きたかった。

でも聞かせてもらえなかった。

それは自分で確かめてって、言われたんだと思う。

「よし、買って行こうぜ。伊織先輩が待ってる」

「うん…っ」