絶対パン派だと思っていた山田のクリームシチューのお供はご飯だった。そこは予想外に裏切って来るんだ。

「え、ご飯にクリームシチューかけるの?」

これもこれで予想外、そんな食べ方したことない。

「いや、逆にかけねぇの?」

「かけないよ!かけるのはカレーとハヤシだけだよ!」

「でも晴も最近はかけてるじゃん」

「そうなの!?未来(こっち)の私!!」

いつもの丸いローテーブルで、私の知らなかった新事実を聞きながらクリームシチューを口に運ぶ。山田の前に置かれた白いご飯の上に豪快に注がれた白いクリームシチューには全く以ってそそられない。

「食パンをクリームシチューにひたひたに浸して食べるのがおいしいのに」

「それもうまいんだよなー」

「ちょっと焼いた食パンもうまい」

「山田、食パン好きだからじゃん」

口いっぱいにクリームシチューを頬張っている。

よかった、またこの空間が帰って来た。

これでいいんだ、これがいいんだよ。


伊織先輩のことはもう忘れよう。


きっと関わらない方が私のためなんだ。


最初からそうだったじゃん。

だから、本当に帰らなくちゃ。

ここともお別れをしなきゃ。


「あのさ晴…」

「ん?何?あ、まだおかわりいっぱいあるよ!」

「あぁ、…ありがと」

クリームシチューを食べる手を止めた山田が悄然とした面持ちで視線を落とした。

「…どうしたの?」

いつもは見せたことのない表情に私もスプーンを置いた。

これからどんな話をされるんだろうって、緊張が走る。

「…やっぱ伊織先輩に会いに行こう」

「え?」

私の瞳を見ながら真剣な顔をして話し出す山田に少しだけ戸惑った。

昨日はあんなに大声で拒絶していたのに、どうして今日はそんなこと言うの…?

「昨日は…あぁ言ったけど、会いに行くべきだなって思う」

「なんで?もういいよ、もう会いたいって思ってないからいいよ!てゆーか別に伊織先輩に会いたいとかもうそんな風にも思ってないし!」

「わかってるよ」

「…っ」

一度は諦めたはずだったのに、なんでもう一度そんな話をしたのか…いつだって私には理解できないことばかりで。

「晴にはまだ知らないことがあるんだよ」

それが今度は怖かったんだ。

真実を知るのはとても勇気のいることだから。