「山田くんとなっちゃんは友達なの?」

「…そう、です」

伏し目がちの山田を横目に、最小限の答えで返事をした。

「そっか、最近山田くんに会ってないから知らなかったよ」

伊織先輩はいつもと変わらない…

なのにこのピリピリした張り詰めた空気は何なの?

なんで私より山田の方がこの場に困ってるの?

どんな顔して会ったらいいかわからないのは私だったのに、山田の方が決まりが悪そうだった。

「連絡もくれないから心配しちゃった」

「すみません、仕事が…忙しくて」

「そうなんだ、仕事大変なんだね」

全然伊織先輩の顔を見ようとしない山田はずっと不自然に視線を落としていた。
それに気付いてるのか気付いていないのか伊織先輩は何ひとつ変化のない声のトーンで話し続ける。

「山田くんは水道工事の会社に就職したんだよね、まだ続いてるの?」

「そうっすね、まぁ…やってます」

「卒業すると会う機会も減っちゃうよね、寂しいけど」

「そうっ…すね」

何を聞かれても歯切れ悪そうに答える山田。


もし私の知らない5年間に2人が仲良くなったとして、それは全然不思議じゃない。


私を通じて仲良くなったことだってありえる。

でもそんな風にはどうしても感じられなくて。

「敬語なんていらないって言ったのに、僕たち同級生なんだから」


………え?


今なんて?

同級生なんだから?

誰と誰が?


進んでいく話に頭が追い付かない。

今まで山田からそんな話聞いたこともない。


今のはどーゆう意味なの?


変わらず微笑む伊織先輩はチラッと私の方を見た。

「よかったら今度、うちに来ない?なっちゃんも一緒に」

「えっ、それは…っ」

わかりやすく山田が口ごもった。

私も何も言えずにいた。

どうして伊織先輩がそんなことを言ったのか…

「…それは、迷惑じゃないですか?伊織先輩も忙しいでしょうしっ。なぁ、はっ…夏!」

「え、あ、うんっ!そうだね!?」

急に話を振られてうろたえてしまった。

頭の中で整理がつかなくてぐるんぐるんしてたから。

全部がバラバラで繋がらない。

「僕はいいよ」

その微笑みが、やけにのしかかるように重かった。

じゃあねと言って伊織先輩は去って行く。

あんなに温かった空気がまた冷たくなっていった。