「伊織先輩…っ!」

飛び込みたかった、本当は。

Florist of dwarfs(フローリストオブドゥウォーフズ)でバイト中の伊織先輩は水色のエプロンをして、店先の花たちに霧吹きで水をかけていた。

「なっちゃん…、どうしたの?」

少し驚いた表情をした伊織先輩。

あたりまえだ、こんな姿でこんな場所で。

だけどもう止められなくて。

ぽたぽたと涙が溢れてくる。

次から次へと、止められない。

「なっちゃん?」

私には伊織先輩しかいないの。

「伊織先輩、好きです。ずっとずっと先輩のことが好きです…っ」

考えれば考えるほど伊織先輩のことばかりで。

辿り着く答えはいつも一緒なの。


だからきっとね、私の伊織先輩を好きな気持ちが未来(ここ)へ来させたんだって。


そうしか思えない。

あの時叶えられなかった想いをどうしても捨てられなかった。


何年経っても、未来に行っても、自分の力で叶えたかった。
 
強く願い過ぎたんだと思うの。


今度こそ、私の想い受け取ってもらえませんか?


「ごめんね、僕ずっと好きな人がいるんだ。小西優月ちゃんって言うんだけど」

“同じ2年の小西優月ちゃんって言うんだけど”

それは何度も頭の中でループされた言葉。

5年前伊織先輩の言ったその言葉はずっと、今も私の中にある。


だけど違ったのは“彼女”ではなく“好きな人”。


それは5年という歳月の流れ。

「…まだ好きってことですか?」

「そうだね」

「…この先も変わらないってことですか?」

「うん、そうだね」

「私じゃ…、可能性ないですか?」

いつも笑ってた伊織先輩のそんな顔、初めて見た。

暗闇を見ているような瞳に、ほとんど動かなかった口角。

私なんて映っていない。



「ないよ」



映っていなかった。