「あんたまだいたの?」

私の顔を見た第一声。
目を細めてこっちを見る表情は明らかに嫌そう。

未来(こっち)の私だ。

その表情に私の顔は引きつった。

山田の住むアパートのドアの前にしゃがみ込んでスマホをいじりながら私たちの帰宅を待っていたらしい。

冷たい風に当たりながら帰ってきたおかげですっかり熱かった顔は元に戻ってはいたけど、気分はより下がった。

私を見るや否やはぁっとタメ息をついた。

なんで顔見ただけでタメ息つけられなきゃいけないのか納得できない…!

「晴、来てたんだ。ごめん、出掛けてて。部屋入っててくれたらよかったのに」

「ううん、鍵忘れちゃって」

鍵忘れるエピがめちゃくちゃ私っぽくて余計にイラっとした。

「寒かっただろ、入って」

すぐに山田が鍵を開けて、未来(こっち)の私に入るよう促した。

誰より先に部屋の中に入って行った。

なんか…、なんか気に入らない!

「ほら、晴…そっちの晴も早く入れよ」

そっちの晴って何さ!!

人を物みたいに言わないでよね!!

入るけど、言われなくてもすぐ入るけど!だって寒いし!!

「お湯沸かすわ、コーヒーでい?」

「うん、ありがとう」

「そっちの晴は?何飲む?」

「…そっちの晴は何もいりません!」

つんっとそっぽ向いた。
それに未来(こっち)の晴が何か言いたげなのもわかったけど、それにも気付かないフリをした。

「…とりあえず紅茶でい?」

「………。」

「寒かったから、飲んどけよ」

「…うん」

困った表情でぽんっと私の頭を撫でた。

時折山田は私のことを子ども扱いする。

私の中で山田はモブで、クラスメイトで、同級生で、ずっとずっと山田だけど…山田にとって私はたぶん子供。5つしか変わらないのに。

「瞬、紅茶なんて置いたあったんだ。コーヒー専門なのに」

「あぁ、晴は昔紅茶しか飲まなかっただろ?だから買っておいた」

…そーなんだ。確かにいつの間にか紅茶が棚に増えてるなって思ってたけど、わざわざ私のために。

そんなことしてくれてたんだ。

さっきの子供じみた言葉が恥ずかしくなった。