手を合わせて2人で食べる朝食、山田のコーヒーの良い香りが漂っていた。

「あ、そうだ夏。これ」

「?」

渡されたのは家の鍵だった。

え、鍵!?

「俺のが出てくの早いし帰って来るのも遅いと思うから、ちゃんと鍵かけてってな」

大きな口でトーストを詰め込むように入れコーヒーで流し込んでいく。急いでるみたいであっという間に食べ終わった。

まだ全然減らない私の朝ごはん。

手の上には家の鍵。

信用され過ぎて怖いんだけど。

空になった食器を持った山田がすくっと立ち上がった。

「あの…っ」

「ん?」

「…今日も、泊めてもらえるんですか?」

「うん。あ、他に行くとこある感じ?あるならそれでもー…」

「ないです!ないですけど…」

こんなにも簡単にいいよなんて言われると思ってなかったから、それに甘えていいのかもわからないし、これでいいのかも…
まだひとつも本当のことは言えてないのに。

「寒かったらそのコート使っていいから」

片付けを終えた山田が慌ただしく出ていく。

残された家でコーヒーの香りを感じながらトーストをかじった。

渡された鍵を見つめながら。

「…これって合鍵かな?それともこれしかない鍵…?」

どんだけ懐広いの山田…。