「逃げるってどこに?」と聞く前に、恭くんは走り出す。
いつだったかもあったな。こうやって恭くんに手を引っ張られて走ったこと。
あの時と違うのは、恭くんが運動神経ゴミのわたしに合わせて、走るスピードが控えめなところだろうか。
周りの人たちに見られている(気がする)中、恭くんは往来を走り続ける。
……そして、一つの建物の前で足を止めた。
「ん? ここは……」
それは、真緒や数馬、その他の友人とも何度も来たことあるような場所。
わたしたちが遊びに行く場所としては定番中の定番。
「か、カラオケ?」
正式名称カラオケボックス。
その前で、恭くんはなぜか立ち止まっていた。
「うん。実は俺、カラオケって入ったことないんだよね。ちょっとドキドキする」
「カラオケ来たことないの!? てか今から入るの? 舞台終わったばっかで疲れ切ってる中歌うんですか!? ……え、待って恭くん歌ってくれるんですか!?」
驚いて変な声が出た。
恭くんが歌っているところは見たことがない。
これだけ綺麗な声してるんだから、上手かったらもう本当に涙出るぐらい感動しそうだ。逆に下手でもそれはそれで美味しい。