色々なことから逃げてきたわたしが言うのだから間違いない。
原さんはボロボロの台本をギュっと胸に抱きながら、睨むようにわたしを見る。
「最初からボイコットするつもりなんてなかったわ。言われなくても」
「そうですか……!」
「求められているレベルには到底達していないだろうけど、これまでの努力を水の泡にするなんて絶対に……ごめんよね」
彼女はスッと立ち上がり、部屋の出入り口に向かって真っすぐ歩く。
かすかにふらついているようにも見えたけど、意志の強さは取り戻していそうだ。
そして途中、何を思ったのかわたしの方を振り返った。
「そういえばあなた、名前は何だったかしら」
「武藤です。武藤瑞紀」
「そう。じゃあ、観客は観客らしく、客席から非日常の世界を味わってね……瑞紀さん」
そう言った彼女は、雑誌やテレビなどで見るような、天使だか妖精だかと見紛いそうな可愛らしい笑みを浮かべた。
そして今度こそ、部屋を出て駆けていった。



