原さんはゆっくりと顔を上げる。
そして、そこで初めてわたしの目をまっすぐ見た。
「ただ好きなことを好きなようにしたかっただけ。好きって言ってくれる人にだけ好きになってもらえればいい。……ファン増やしたいとか、もっと有名になりたいとか思ってたわけじゃない」
「はい……」
「今回の仕事は、あたしを新しい世界に進出させたい事務所の方針。演技なんてできないのに。女優の仕事なんてしたいと思ったことなかったのに」
他の人たちに迷惑を掛けていい理由にはならないけど、彼女には彼女なりの悩みがあった。
原さんは、決して今回の仕事が気に入らないからぶち壊してやろうと思って隠れているわけではない。
怖いのだ。きっと、自分の実力が追いついていない仕事をさせられるのは初めてだったのだ。
その抗い難い恐怖心から、思わずここに隠れてしまった。ただそれだけのこと。
わたしはふと、原さんの近くにボロボロの冊子が落ちていることに気が付いた。
「台本。こんなにボロボロに」
「! か、返して」
「すごく練習、したんですね」