なぜか推しが追ってくる。





「近くまで来たなら連絡くれたら良かったのに。入りにくかったでしょ?」




恭くんはうずくまる俳優仲間をガン無視してわたしに近づく。




「恭……てめえ……」


「ああ、いたのイトウくん」




あ、そういえばイトウさんって言ったのかこのチャラ俳優。


てかそんなことより……。

既に役柄に合わせてウィッグやメイク、衣装がセットされた恭くん。まじで、さ。




「やば……麗しすぎ……」




恭くんを至近距離で浴びたわたしは、後頭部の痛みに耐えているイトウさんと同じようにその場にうずくまった。


眼福も度が過ぎれば劇薬です。

舞台上では遠くから見るから良いけど、この距離で見るのは刺激が強すぎたみたいだ。


恭くんはちょっと苦笑いして「えっと……」と頬を掻く。




「……写真、撮る?」


「いいんですか!?」


「瑞紀ちゃんが個人で見る分ならいくらでも」




恭くん、ちょっとわたしの思考が読めるようになってきたな。


他のファンの皆さんを差し置いてわたしだけそんなサービス受けていいものか……という気持ちも一応あったけど、どうせ誘惑に負けることはわかりきっているので素直にスマホを取り出した。