だけど原さんはその要望に実に不満げで……。




「あたしは十分ヒロインを演じられているつもりですよ」


「だけどもっとこう……」


「監督のこだわりは知りませんけど、あたしの本業は女優じゃありません。はっきり言って、この舞台にそんなに力を割くつもりはないんです。あたしの名前で人を呼ぶなら、あたしの都合に合わせるのが筋では?」




声のトーンは柔らかくて可憐なのに、言葉は高圧的だ。

SNSなんかで見る原麗華の天使のようなイメージとはかなり違っている。

だけど彼女のこういう態度はいつものことなのか、何となく諦めのムードが漂っていた。恭くんも黙って台本見返している。


そして彼女はそのムードすらも気に入らないのか、大きくため息をついた。


すると、原さんの目がなぜか突然わたしに向けられた。




「あ、そうだ。ちょうどいい」




彼女は隅にいるわたしの元へやってきたかと思うと、満面の笑みを浮かべる。




「このスカウト希望の子に、あたしの代わりのヒロイン役やらせて練習したらどうです?」


「……え、わたし?」