恋愛物はあまり好きではないけれど、このときはなぜかそれがよかった。

 室内の灯りを消し、寝台脇のサイドテーブルのキャンドルだけにしておいた。そして、本を片手に寝台に頭からダイブしてから布団に入った。

 ヘッドボードに背中をあずけて小説を読みはじめたけれど、「序章」と声に出して読んだ瞬間に落ちてしまった。

 寝台からではない。眠りに、である。

 目を覚ましたら、また室内が明るくなっていた。

 飛び起きた。

 夜中、本を寝惚けたままの状態でサイドテーブルの上に置いていた。

 よかった。頁にヨダレでも垂らそうものなら、紙がブワブワになってしまうところだった。乾いても跡が残ってしまう。何十年後、まだこの古びた宮殿が残っていたとしたら、この小説を見た人はいろいろ思いを馳せ、ロマンを味わうことになるかもしれない。

 寝台から飛び降り、本を本棚に戻した。

 やはり、恋愛ものは性に合いそうにない。今夜は、ハードボイルド系かしら。いえ。いっそ復讐ものがいいかしら。

 そんなことを考えつつ、テラスへと続くガラス扉へ行き、おもいっきりガラス扉を開けた。

 ドキドキする。まさか、またお昼すぎってことはないわよね。

「ブルルルルル」

 そのとき、庭から馬の鼻を鳴らす音がきこえてきた。