それとは別に、いま厨房に置いてある葡萄酒や葡萄ジュースは、いつも頼んでいる街の店からではなくウオーレンが他国の商人から購入した物である。

 先日、たまたま街で販売していたらしい。

 葡萄栽培農家から直接運び込み、販売していたとか。つまり、産直というわけ。

 ウオーレンは、それらが葡萄栽培で有名な地域の物だと知って即座に購入した。

 産直品の販売者が、他国の商人というところが怪しくもある。

 商人に身をやつし、ウオーレンに毒入りの葡萄ジュースを売りつけたとしてもおかしくない。

 先程の一杯目は、まだ残っていた古い葡萄酒と葡萄ジュースをだした。

 だけど、二杯目はその他国のを出すことにした。

 他国の葡萄ジュースと葡萄酒を、それぞれのグラスに注ぐ。

 ウオーレンだけ葡萄ジュースを、宰相とウイリアムとトリスタンとわたしは葡萄酒にした。

 葡萄ジュースに毒が仕込まれていたようにしたいからである。

 すべて注ぎ終ってから、例の小さな薬袋を眼前にかざした。

 左右を見まわしてみた。だけど、いまいるところは厨房の片隅である。こちらを見ている者はまったくいない。

 それでも、念のため背を向けた。

 ウオーレン、悪く思わないでね。

 おもわず、心の中でつぶやいていた。

 それから、すべてのグラスをトレイにのせて居間へと戻った。