「マキ・セルデンッ! またやらかしたのね。殿下、申し訳ございません。風邪が流行っておりまして休みが多く、このマキを使わざるをえなかったのです」

 執事長と侍女長に両脇をかためられ、三人そろってペコペコと頭を下げ続けている。

 この夜、わたしはまたやらかした。皇宮に来て、これで何度目のことかしら。十回目まではカウントしていた。だけど、それを越えたら達観してしまった。

 とはいえ、どれも大したことはない。可愛らしいレベルのものばかりである。

 長い人生なんですもの。ちょっとした失敗の十回や二十回、あってもおかしくないわ。それを目くじら立てて責めるなんて、その方がどうかしている。

 そう前向きに思うことにしている。

 この夜もやらかしたというほどではない。少なくとも、わたしのやらかし歴の中ではまだ軽いレベルになる。

 今夜は、皇族や官僚や上位貴族だけのパーティーが行われている。その席上で飲み物を運んでいて転びそうになり、ほんのちょっとバランスを崩しただけである。

 バランスを崩した際、なぜかトレイ上のグラスに入ったお酒が傾いた。さらに不思議なことに、なぜかお酒がすっ飛んでいった。転びそうになったときに、ちょっとだけ勢いがついたのかもしれない。

 それはともかく、お酒の入ったグラスは見事なまでに宙で弧を描き、そしてぶちあたった。