「新那もこっちに座りなよ?」
「だめだよ。だって、これ瑠佳ちゃんのために用意されたものでしょ。私が座ったら何を言われるか……」
怜央の顔色を覗いながら、そっと耳打ちをしてくる彼女。
「何も言われないって」
「で、でもっ」
「ていうか、これ備品で怜央の物でもないし」
「そうなんだけど……」
この数日間、怜央の良いところをいくつか伝えてみたのだけれど、彼女の中で出来上がった蓮見怜央のイメージはそう簡単には崩せそうにない。
「何、ごちゃごちゃと話してんだよ」
コソコソと話す私たちの声はいつの間にやら大きくなっていたようで、怜央が会話に割り込んでくる。
そもそも、この距離で聞こえないように会話をするなんて始めから無理があったんだ。
なんだか怜央はいつもより気が短い気がするし、新那はさっきの言葉で完全に萎縮してしまった。
このままでは一向に話が始まらない。
私がどうにかしないと。



