「……ありがとう。で、理由は？」
「…………」
怜央はこの件についてあまり触れてほしくはなさそうだ。
それならそうと言ってほしい。
誤魔化されると私はモヤモヤしたままだ。
「あの頃の瑠佳はただ言われた通り俺の名前を呼んでただけだろ。だから……足りなかったのは気持ちっつーか」
「気持ち……。仕事とは関係ない形で名前を呼んでほしかったってこと？」
「ガキみてぇなこと言ったって自覚はあるよ。だから、この話はもういいだろ」
怜央は照れくさそうにして頭をかく。
私はそんな怜央をもう少しだけ見ていたくて「じゃあ、彼女の私が口にする怜央の名前はもう100点？」と首を傾げた。
「そうなるんじゃねーの」
「……ふっ」
「笑ってんなよ」
「怜央」
「あ？」
「怜央」
「なんだよ」
「……なんでもないよ」
これからは、もっと気持ちを込めて呼ぶよ。
大切なあなたの名前を。
『なんかよくわからないけど、水瀬が蓮見の名前を何度も呼んで返事させてた』
『俺は飲み物にストローまで差して渡してる蓮見を見たぞ！』
水瀬瑠佳が蓮見怜央を飼いならしているという噂が広まるのは、もう少し先のお話──。
