これは夏休みに入る少し前のこと──。



私は95点の答案用紙を握りしめながら隣のクラスへと向かった。


「怜央!」

私が彼の名前を呼びながら教室へ足を踏み入れると、周りの生徒たちが「修羅場か?」と息を呑む。

窓側の一番後ろの席に座っていた怜央の机に、私はさっき返却された小テストの答案用紙を叩きつけた。

「……なんだこれ」

「英語の小テスト。怜央も受けたでしょ?」

「知らねぇ」

「……本当にどうやって進級したんだか。って今はこんな話がしたいんじゃなくて。あの時の5点って何が足りなかったの?」


「あの時の5点?」

狂猫や櫻子さんのことで頭がいっぱいになり忘れていたけれど、怜央は私にバイトを依頼した日、5点という点数をつけた。


それは私が上手く怜央の名前を呼べなかったからだ。

その2日後、名前を完璧に呼べるようになった私に怜央は再び点数をつけた。

95点と。残りの5点は何が足りなかったのか。

私はまだその理由を聞いていない。



「私に95点って言ったでしょ。初めて待ち合わせした日!」

「……ああ、言ったなそんなこと。別に改めて説明するほどの話じゃねぇよ」

「いいから教えて」

「まぁ、とりあえず糖分でも摂れよ」

机の端に置いてあった紙パックのカフェオレに怜央がストローを差す。

「ほら」と言ってそのカフェオレは私に手渡された。