【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。



香坂に強く腕を引かれながら、階段を上り始めたその時──、


「……こいつらなんの役にも立たねぇな」


怜央の声が私と香坂の足をピタリと止めた。


振り向いた時には、さっきまで強固な壁となっていた男たちが皆、地面へと這いつくばっていたのだ。


「…………蓮見てめぇ、ふざけた真似しやがって」




「ふざけた真似してんのはどっちだよ。香坂……お前、誰のものに手ぇ出してるのかわかってんのか?」

怜央は一度、私に視線を送ってから2階に目をやる。

私はそれを“合図”だと受け取り、バレないよう小さく頷いた。




そして次の瞬間、倉庫内に怜央の怒号が響く。


香坂が怯んだその隙に私は彼の手から逃れて、2階へと一気に駆け上がった。

狂猫は志貴たちのそばにしかいない。


そう思っていたけれど、棚の奥から一人の男が姿を見せて、逃げ出してきた私の腕を「逃さないよ」と言いながら掴んだ。


男の顔は深くかぶったキャップとマスクせいでよく見えない。

だけど、「逃さないよ」という言葉からして狂猫の人間だろう。




「……っ、離して!」

男の手を振りほどこうと試みるが、びくともしない。