【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。



あの日と同じようにナイフが頬に触れる。

同じ高さで交わる視線。

それを先に逸したのは意外にも香坂のほうで、彼は私の顔からナイフを遠ざけると今度は大きく振りかぶった。



「蓮見なんかと出会わなければ良かったのにね」

ほんの一瞬、悲しげな表情を浮かべた香坂。

彼がつぶやいた言葉は私に向けたものというより、自分自身に向けて発したもののように聞こえた。



けれど、私にその真意を確かめるほどの余裕はなく、太ももに振り落とされるであろうナイフから目を逸らす。








うちに帰ったら志貴に怒られるだろうな。なんでこんな仕事を引き受けたんだって。


新那は大きな瞳からたくさんの涙をこぼすだろう。

怜央は間違いなく自分を責めるだろうし、闇狼のメンバーには何度も頭を下げられそう。