「降りろ」
目的地に到着すると、男は私を先に車から降ろした。
目の前には古びた倉庫があり、その周辺には数十台のバイクが停められてある。
これが狂猫のアジトなの……?
ここは住宅街から遠く離れていて、近くの道路は交通量も少ない。
“何か”起きても近隣の住人は気づかないだろう。
私が今、所持しているものはショルダーバッグの中にある電源の切れたスマホと財布だけ。
身を守れるようなものは何も持っていないし、怜央から預かった狼もそばにいない。
でも、大丈夫。
怜央がうちに来るのは今から15分後。
私と連絡が取れないことを不審に思い、狂猫の動きに気づいてくれるはずだ。
「おい、入れ」
男は倉庫の扉を開けると、私に中へと入るよう指示をした。
「何ここ……」
闇狼のアジトとは全然ちがう。
複数の香水が混じった匂いに、爆音で鳴り続ける音楽。



