【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。


「早くアジトに向かって」

「その前に今すぐそれを捨てろ」

男は私のショルダーバッグの横で揺れる狼キーホルダーを指差しながら、そう言い放った。

「捨てろって無理に決まってるでしょ」

これは怜央から一時的に預けられたもの。

櫻子さんが怜央のことを想って作った大切なキーホルダー。

「こっちはもうわかってんだよ。それにGPSが仕込まれてること」


「でも、捨てるなんて」


「お前がそれを処分するまで車は動かない。いいのか早く弟に会いに行かなくて」


「……わかった」


ごめんね、怜央、櫻子さん。

私は一度車から降りて、ショルダーバッグから外した狼を電柱の横へとそっと座らせた。


「これでいい?」

「さっさと乗れ」

私が再び車へと乗り込んだのをバックミラー越しで確認した男は何も言わずに車を走らせた。



香坂の元へと向かう道中、私の質問に男が答えることはなかった。