「もしもし、」

『どうも、水瀬瑠佳ちゃん』

その声は2週間前、私の前に突如現れた男のものだった。


「どうしてあなたが私の番号を知ってるの?」

『さぁ?どうしてだと思う。知りたいなら教えてあげるよ。だから、今から会わない?』

スマホから聞こえてくる香坂の声は、やけに上機嫌だった。

この電話は、また私を攫うための(おとり)なのかもしれない。

そう思って周辺を警戒するが、怪しい人物は見当たらなかった。

そもそも今日は休日で、この辺りは人も多い。

前回のように、私を無理やり連れ去るなんてことはできないだろう。

「会うわけないでしょ」

『そんな態度でいいの?今日の主役はもうここにいるよ』

「……なんのこと?」

『今日の主役は志貴くんしかいないでしょ』


その言葉に背筋が凍りついた。

香坂の言っていることが本当ならば、志貴は彼の元にいる。


『早く志貴くんに会いに来ないと、おねーちゃん』

「志貴はどこなの?私の大切な弟に手を出したら許さないから」