【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。



ピチョン、ピチョン──、



     ピチョン、ピチョン──。



遠くから聞こえるのは水の音?


また蛇口を閉め忘れた?

違う、この音はあの廃虚ビルの───。

夢の中の世界へと誘われてから数時間。

私はベッド上でハッと目を見開いた。

額や首元にはじっとりと汗が滲んでいて、心臓はドクドクと暴れている。


「……はぁ、……はぁ、」

何度も息を吐き出しながら隣に視線を移す。

怜央がいる……そうだ、ここは怜央の家で廃虚ビルなんかじゃないし、香坂もいない。

その事実に安堵して、怜央を起こさぬようこっそりベッドから抜け出した。

水漏れの可能性があるのは洗面所とお風呂場、それかキッチンの3か所。

私は蛇口に緩みがないか1か所ずつ見て回った。


しかし、どの蛇口もしっかりと閉められていて、水は一滴もこぼれ落ちていなかった。

私は夢でも見ていたのだろうか?

それとも幻聴?

どちらにせよ、このままじゃ眠れない。

何か飲み物でももらおうかな。

そう思って冷蔵庫に手を伸ばした時、掠れた声で「瑠佳……?」と呼ばれた。