「これ被れ」
注目されることに慣れているのか、周りの視線など一切気にしない様子の怜央は私にヘルメットを押し付けてきた。
「えっ、もしかしてバイクに乗って移動するの!?」
本来、校則で認められているのは一人乗り用の原付のみ。
けれど、怜央のバイクは見た感じ2人乗り用だ。
「私、バイクに乗るの初めてなんだけど……落ちたりしないよね?」
暴走族総長の後ろに乗るということに若干の恐怖を感じていると、手に持っていたヘルメットを奪われる。
「ご、ごめん。変なこと言って」
怜央は私の雇い主。
それなのに、余計なことを口走ってしまった。
早速やらかしたことに反省していると、頭にヘルメットを被せられる。
「着け方もわかんねぇのかよ」
……どうやら怜央はヘルメットを没収したのではなく、被せるために手に取ったらしい。
確かにバイクに乗るのは初めてだと言ったけれど、ヘルメットの着け方くらいはわかる。
私がそう口にする前に、カチャッとバックルの締まる音がした。
そして、視線を上げた怜央とばっちり目が合う。
その距離わずか数センチ。



