車内に流れていたラジオに耳を傾けてから30分。

タクシーは怜央が一人暮らしをしているマンションの前で停車した。

私が財布を開く前にスマホで運賃の支払いを済ませる怜央。


握られた手はまだ一度も離されていない。

いつもは落ち着かないこの距離に今日は何度も救われた。


怜央が隣にいてくれるだけで、気持ちが落ち着く。


……もしかして、タクシーを選んだ理由は私の手を握ったままでいられるから?

いやいやいや、都合よく解釈するのはやめよう。


「瑠佳?何ぼーっとしてんだ。行くぞ」

「あ、うん」

先に外に出た怜央に声をかけられて、私もタクシーから降りる。


ん?あれ、ちょっと待って。

咄嗟に「うん」と返事をしたけれど、行くってどこへ??

ここでタクシーを降りたってことは怜央の家?


「ねぇ、怜央の家に寄るの?私、今日はもう帰らないと」

タクシーにあった時計は19時を回っていた。

今日はバイトが休みの日。


そろそろ帰らないと志貴が不思議に思うだろう。