誰にも気づいてもらえない。
そんなことはなかった。
あの音はちゃんと怜央たちの耳に届いていたんだ。
「一人でよく頑張ったな、瑠佳」
「あはは、まぁね。給料分はしっかり働かないと」
こうやって無理にでも笑っていないと、涙があふれてしまいそうだった。
本当はずっと怖かった。
捕まった時も、目を覚ました時も。
香坂と言葉を交わし、逃げ出そうとしたあの時だって。
でも、敵に弱みを見せてはいけないという思いから虚勢を張っていたのだ。
ナイフが頬に触れた時の感触や髪を引っ張られた時の痛みは今も消えない。
だけど、怜央の前ではいつもの私でいたいから唇を強く噛んだ。
“強い姫でいること”
私の価値はそれだけだから。