「フィア。彼が、君の婚約者だ」


フィア・シャルムティア。

父と母、妹に虐げられ、地下に幽閉されていた貴族のお嬢様。

やることがなく、できたのは本を読むことだけ。

魔法が大好きな少女になっていた少女。

彼女は、食事も満足に食べれずにいた。

かわいそうだけれど、メイドたちは瘦せこけていく彼女に食事を与えることができなかった。

与えれば、自分のしたことが見つかってしまい、生活が苦しくなる。

メイドたちも自分の生活があるため、ただかわいそうな彼女を見ていることしかできなかった。

メイドたちは、仕事をしながら心の中でつぶやく。

(かわいそうに......虐げられていたのに、婚約まで............)




フィアは、正面に座っている少年に対し、作り笑いを浮かべた。

威圧的な父の態度とその言葉をも気にも留めず、にこりと笑う。

 
「よろしくお願いしますね」


(やっと......やっとこれで自由になれる......!)

メイドたちは知らない。

彼女が、そう思っていたことを。