その12
剣崎



あの夜…、相和会の”内部”に係わる存在に到達していた麻衣には、ミカの過去、それに相和会との”これまで”を告げたんだが…

麻衣はすでにミカとは倉橋の件も含め、すべてをクリアしていたようだ

こいつ、俺が抱くミカへの深意もこの日の話を聞いた瞬間に、察知したらしい(苦笑)

「…相馬さんがこの夏亡くなってからは、倉橋を見るミカの目が違ってきたのに気付いたんだ。どうやら、ミカのヤツ、相馬さんの面影と重ね合わせたようだな…」

「…私、ミカさんに言っちゃったんですよね。それこそ、お墓の中にいる相馬会長の前で。私にもしものことがあったら、撲殺男をよろしくって…」

「麻衣…!」

俺は思わず、生意気抜かすガキに説教をかますオヤジになっていた(苦笑)

で…、俺の期待通り、いや、それ以上に麻衣はやってくれた

ミカからその重い荷物を一気に消し去ったのは、もろ麻衣だったんだ!

おまけに麻衣の奴、例の鋭いカンとかってので、バグジーと呼ばれてる柴崎って男とくっつけやがった(苦笑)

アイツ…、もしやそれを確信して、柴崎を自分のガードに推したのかもな


...


そして…

伊豆での倉橋&麻衣の盛大な婚約披露を終えてまもなく…

いよいよミカの本当の巣立ちが訪れた

柴崎とかってフリーランサーの用心棒と恋仲になって、そいつの故郷である信州に渡るってことになってな

俺はミカがこの東京埼玉都県境を去る前日、二人で相馬会長の墓前に赴いた

”会長、お待たせしました。ミカの顔、こんなに眩しくなりました。じっくりご覧ください。約束…、大変遅くなってすいません”

線香を手向け、目を閉じて手を合わせた俺は、ゆっくりと会長へそう語り掛けた

隣では、麻衣によって新たな表情を手に入れ、麻衣を通じて心を通わす恋人に巡り合え、麻衣の存在によって女スナイパーの職を捨てる決断に辿り着いた、ピカピカで年相応の若い女性…、鹿児島ミカが相馬さんと何やら語りあっていたよ

俺は鳥肌を立てて、感激に浸っていたわ


...


「じゃあ、ミカ…。最後に俺が自分の心に誓ったお前へのメッセージを受け取ってくれ」

「はい。お願いします」

なんとつややかな表情なんだ!

こんな表情を浮かべることのできたお前を前にして、この8年間、ずっと喉まで出かかったままの言葉を吐き出せるなんてな…

感慨無量ってもんだよ

...


「ミカ…。今こそ、8年前、北九州のビルで語った夢に向かっていってほしい。身につけた演技力を生かして女優になる道を目指してくれるか?」

「剣崎さん…、今のその言葉、一生忘れません。その夢は、今後も持ち続けてはいきます。でも、今の私は、愛する大切な人と一緒に生きて行きたい気持ちの方が強いんです。ごめんなさい、それが正直な思いなんで‥」

「おお、それでいいって。要はミカが自分を幸せにすることにどん欲になってくれれば、それで俺も倉橋も、亡くなった相馬豹一も満足なんだ。元気でな…」

「剣崎さんもお元気で‥」

ミカとはそこで別れた

しかし、ひとかけらの寂しさも感じなかったよ

それは、腹いっぱいの嬉しい別れってとこだったからかな

俺は、ミカも同じ気持ちであることを祈らずにはいられなかった…




ー完ー