契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける



せっかく、悠介が弁護士だとか夏美さんのプロデュースしたホテルだとかで驚いていたあまり、そのへんのことも忘れていたのに。
一番悪いタイミングで思い出した気がする。

結婚生活を送っている体のホテルは寝室が別なため、こうして同じ空間で眠るのも初めてで、それも緊張を増幅させていた。
レストラン前で私を待っている立ち姿を見てカッコいいと思ったときから、実は食事中も少しだけ速足だった鼓動が誤魔化せないものとなっていて、悠介の顔が見られない。

二十四年間生きてきて、こんな困惑は初めてでどうしたらいいのかがわからないし、まず、視線をどこに定めたらいいのかも不明だ。

十分広い部屋のはずなのに、密度が高い気がして落ち着かない。

「あ、えっと、窓の外も工夫されてて綺麗だね」

ベッドに腰かけ、外を眺めている振りをしようと決める。そうしているうちに気持ちも平常心に戻るかもしれないし、状況が変わることを願って。

それなのに……不意に後ろから抱き締められ、それまでぐるぐるしていた頭が真っ白になった。

ふわっと香るのは、おそらくシャンプーだろう。女性用のお風呂には髪質によって使いわけられるよう、数種類のシャンプーとコンディショナーがあったから、男性もきっと同じで……と、どうでもいいことを焦りながら考える。

向かいにあるガラスには、悠介の足の間に座っている体勢の私が映っていた。
自分たちがどれだけ密着している状況かを俯瞰で見てしまい、余計に鼓動が跳ね上がる。

男性に抱き締められるのなんて生まれて初めてだ。

背中にあたる体の硬さや骨ばった感じが私とは全然違うし、腕の太さや手の大きさも違う。そんなの考えれば当たり前なのに、身をもって知りじわじわと実感していく。

視線を下げると、浴衣の袖から覗いた腕が見え、筋の出方にドキドキした。