「私だって、こんなこと言いたくなかったです。ありがとうって、心から感謝して恩返ししたかった。母の日には毎年プレゼントを選んでみたかったし、学校で制作した折り紙のカーネーションを、ただ捨てるんじゃなくて手渡してもみたかった」
保育園で描いた似顔絵も、紙粘土でビンを包んで作った花瓶も、広い集めたドングリで飾り付けた写真立ても、誰かの目に触れることもなくゴミ箱行きとなったけれど、本当だったらきちんと渡して、そして喜んでもほしかった。
でも、その夢を壊すどころか、抱くことすら許してくれなかったのは紛れもなく母親だ。
あの時、プレゼントと一緒に捨てたのは……幼い私の母親への期待だ。
母親の私への態度は、私が自分自身の存在を否定するようになるには十分すぎた。
「生まれてきたくなかったなんて……消えてなくなりたいなんて、本当は一度だって思いたくなかったのに」
うまく折り合いがつけられずにいた、一番ツラかった頃の感情が蘇り目の奥が熱を持つ。
大事にされたいと、諦めきれずに望んでいた小さな自分が胸の中で暴れているのを感じた。
それに流されないよう、もう一度深く息を吐いて気持ちを切り替える。
感情的になるな。
しっかりと前を向け。
「話が逸れましたが、私は離婚するつもりも兄と結婚するつもりもありません。そもそも、こんな家に戻ってきたいと思うはずがないじゃないですか。それに、いくら血が繋がっていないとはいえ、同じ家で育った息子と娘を結婚させようと考えられる神経がわかりませんし、これ以上ないほど気持ち悪い──」



