契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける



『これだけ執拗にメッセージや電話がきているし内容が内容だから、脅迫罪も適用になると思う。あとは……ごめんね。立ち入ったことを聞くけど、家庭内暴力とかは大丈夫だった?』

私が傷つかないか心配しながら聞く夏美さんに笑顔でうなずいたのは二日前。
あんなに優しい夏美さんを怒りマックス状態の母親に会せるわけにはいかない。

だから、母親のうっ憤を多少なりとも吐き出させておくために三十分時間をずらしたのだし、こちらが熱くなってはダメだ。

ここに来るまで思い描いていた作戦を頭の中に再度広げたとき、母親が「はっ」と笑いを吐き出し、立ち上がる。
そして、私の目の前にきて顔を歪めた。

「顔も見たくなかったのは私の方よ。汚れた出生のあなたを、私がいったいどんな気持ちで二十年以上も家に置いてやったと思うの? 毎日早く消えればいいと、どれだけ憎々しく思ってきたか、頭の足りないあなたにはわからないでしょうね。そういうところは、顔くらいしか取り柄のなかった母親にそっくりよ。どうせ、結婚相手だって外見だけで取り入ったんでしょ? 親子して汚らわしい」

サンドバッグにならないと。
そして、ちょうどいいラリーを。

サンドバッグになって、ラリーを……。

自分自身にそう言い聞かせるのに、湧き上がってくる怒りが簡単にその命令を飲み込んでいく。
それでも、感情的になったら負けだという、私の中にあるルールだけが怒りの波に揉まれながらもどうにか形が保たれていた。