契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける



「龍ちゃんの妻になろうって人が、まさかバツイチだなんて……。あなたの勝手な行動が龍ちゃんの顔にも〝白川楼〟の看板にも泥を塗ったってわかってるの? そういう頭の悪さはどちらに似たんでしょうね……ああ、どちらにしてもいいわけがなかったわね。不倫して子どもまで作るような低俗な親の子ですものねぇ」

看板を傷つけて、客足を遠のけさせたのは母親だろうに。
相変わらず自分の非を認めずに他人を責める様子に嫌気が差しながらゆっくりと口を開く。

「〝白川楼〟については、私にはなにも関係がないことですので。それに私は、離婚するつもりも、龍一さんと結婚するつもりもありません。今日はきちんとそれを伝えにきただけです。そちらの要求は何ひとつのむつもりはありませんし、恩返しするつもりもさらさらありません」

淡々と言い、母親を見た。

「私が家を出るまで、ご自身が私をどんな扱い方してきたか忘れましたか? それなのに私がいつまでもあなたに恩を感じていると考えていたなら、笑っちゃうくらいありえない話ですけど」

母親が顔中に怒りを広げたのは予想通りにしても、兄が目を見開き私を見たのには驚いた。

いつもなんの感情も出さなかったのに……と考え、でも私だって色々と諦めてからは、家族間では無感情を意識していたしな、と思い直す。

あんな急ではないにしても、いずれ家を出るつもりではいたからそれまでの辛抱だと自分を言い聞かせ、基本的に母親の言葉は聞き流してきた。

だから、兄からしたら、私がこんなふうに面と向かって逆らうのは意外だったのだろう。