夏美さんは後から来る予定でいる。
というのも、母親のうっ憤をそれなりに吐き出させた後じゃないと、どれだけ失礼な発言を夏美さんに向けるかわからないからだ。
とりあえず、私に不満をぶつけさせてから会わせた方がいいと思い、夏美さんには三十分後に入ってきてもらう算段でいる。
「そもそも結婚するって言うのに、親に挨拶にもこないなんてどうかしてるわ。普通、三つ指をついて頭を下げるものでしょうに……さすが、あなたが選ぶような人ね。程度が低すぎる」
感情のコントルールができない母親は、今日はヒステリックに叫ぶというよりも、嫌味なトーンでネチネチと言う気分らしい。
まだ家族とうまくやりたいと諦めていなかった小さな頃は、日によって態度を変える母親への対応に困惑したものだ。
まぁ、どんな態度にせよ一貫して私には悪意しか見せなかったのでそのうちに糸が切れるようにプツッと諦めようと思えたけれど。
母親の嫌味な声を、心を無にして聞き流しながら、チラッと兄に視線をやる。
私がここにきてからひと言も発していない兄は、この家にいた頃の私のように、感情を捨てたみたいな顔をしていた。
母親は兄にだけは甘いけれど、それ以外の人間に対しては非道ともいえる態度をとる。
そんな母親を一番近くで見てきた兄にも何か思うところはあるのかもしれない。
家を出る前は、兄にも苛立ちを感じたこともあったものの、三年離れてみたらなんだか可哀相だという思いが生まれていた。



