契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける




「大丈夫よ。私は柚希ちゃんと悠介の味方だから。それにね、一度帰った方がいいっていうのは、悠介のためでもあるの」

それは……たしかにそうだ。
妻の親に結婚の挨拶もしなかったなんて、常識的にありえないし、有沢グループの御曹司ならなおさらだ。

形だけでも顔合わせはしておかないと後々まずいというのはわかる。

『今後にもかかわってくるし』

夏美さんがどういう意図でそう言ったのかはわからないけれど、その通りだ。

悠介が再婚するとして、前妻の親に挨拶しなかったという事実は残しておかない方がいい。離婚歴以外の汚点を、悠介の未来に残したくはない。

母親がどんな対応をしたとしても、きちんと有沢家の人が挨拶に出向いたという事実が残ればそれでいいのだ。だったら……。

「わかりました。週末、帰ります」

顔を上げてうなずいた私を見て、夏美さんは「大丈夫よ。柚希ちゃんをひとりにはしない。だから事情を話して」とハッキリと言ったのだった。



日曜日、約三年ぶりに入った〝白川楼〟は記憶の中のそれとどこも変わっていなかった。

月曜日、蘭に写真を見せてもらった通りだ。

建物を囲む、黄土色の塗り壁。入口の門横には和紙をイメージさせる照明があり、そこに〝白川楼〟の文字が入っている。
門をくぐり、石畳のアプローチを少し進むと三階建ての純和風の旅館入口に辿り着き、夜には建物内からたっぷりと漏れる、暖色の懐かしさを感じる照明が迎え入れてくれる。

大きな窓からは、昔はせわしなく動き回る仲居さんの姿が見えたけれど、今は閑散としていた。