「え、夏美さん、今、今週末って……っ」
驚きすぎて言葉が続かない私に携帯を返しながら、夏美さんはなおもにこやかだった。
「うん。なんだかひどく混乱してるみたいで話にならなかったから、直接会った方がいいかと思って。あ、もちろん私も同行するわ」
「えっ、いえ、それは……っ」
「それに、悠介との結婚のこと、お母様にきちんと報告していないんでしょう? だったら一度帰った方がいいわ。今後にもかかわってくるし」
結婚したと言う報告を母親にしていなかったという事実を知っても、夏美さんはそれを不思議がったりせず、ただ優しく帰省を促す。
夏美さんの言う通り、結婚の挨拶なのだから、直接顔を見てするのは当然ではある。でも。
「それは……普通の家庭だったらの話です。うちは少し事情があって……実は関係が良くありません。だから、結婚を機に家族や実家から離れようと考えているんです」
目を伏せ、膝の上で拳を握る。
こんな話をしたら、悠介との結婚を夏美さんが反対するかもしれないとは考えた。
でも、あの母親に夏美さんを会せる方がまずい。
母親が夏美さんになにを言うかわからないし、私だって顔を合わせたくない。
詳しい事情を求められたらどう説明したらいいだろう……と考え恐る恐る顔を上げると、夏美さんがそれを待っていたように目を細めた。



