契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける



「電話でしょう? 私のことは気にせず出て」
「……はい」

このまま無視したり切ったりしたら、私が夏美さんに気を遣っての行動だととられてしまう。

それに、私が家族と不仲だということを夏美さんに言っていいものかもわかりかねたので、仕方なく通話ボタンを押した。

母親からの連絡は基本的に無視していて、私の意思を伝えるにしてもメッセージにしていたので、まともに話すのは家を出てから初めてかもしれない。

『いい加減にしなさい! 何度私からの連絡を無視するつもり? 誰に育ててもらったか忘れたの?! この役立たずっ』

私が、はい、と二文字言うのも待たずに聞こえてきた声は、ひと言目からトップギアに入っているのがわかるものだった。
ヒステリックな母親が、従業員やかつての父親に向かって出していた、耳がキンとする声は一瞬で私の心を真っ黒に塗りつぶす。

『あなたなんて、私が家に置いてやったから生きてこられただけのくせに! いい? あなたには私に一生かかっても返せないくらいの大きな恩があるのよ。わかったら、すぐに帰ってきて龍ちゃんと結婚しなさい。私とこの家に尽くして、少しくらいは私たちの役に立ちなさい!』

一方的に怒鳴られると、一気にあの家にいた頃に気持ちが引き戻される。

何度割り切っても割り切っても処理が追い付かずにどんどんどす黒く曇っていく胸に、やっぱり電話に出なければよかったと後悔した。