「そうなんだー。でも、そっか。悠介からしたらきっとその指輪は不本意だもんね。でも、結婚を決めていたならもっと段取りよく指輪を準備しておけばよかったのに。気が利かない男ね」
「あ、いえ……その、結婚は突発的に決まったというか、再会してからのスピード婚だったので、悠介も用意しておく時間がなかったんだと思います。でも、住む場所とか服とか、私が過ごしやすいように気を遣ってくれているので、とても嬉しく思ってます。この服も、悠介に頼まれて夏美さんが選んでくれたんですよね」

なりそめだとかは悠介とそこまで話を詰めていない。
個別で聴取された場合、答えが食い違っても困る……と考え、話題を変える。

私の言葉に、夏美さんは「ああ、それ」と笑顔を浮かべ視線を下にずらす。
今日着ているチェック柄のベージュ色のショート丈ジャケットも、黒のニットも、白と黒の切り替えのあるロングのプリーツスカートも茶色いショートブーツも、夏美さんのブランドで、悠介が準備してくれた物だ。

『適当に着ろ』とキャリーバックほどの大きさのある紙袋を五つ渡されたのは、同居を始めた翌日。中身は全部、夏美さんのブランドの服や靴、そしてバッグだった。

悠介が言うに『何パターンか用意してくれって話したら、これ全部渡された』らしい。

私の荷物はほとんどがトランクルームなので、その辺を気にして夏美さんに頼んでくれたのだろう。
服だけでなく、食事や化粧品にいたるまで悠介は先回りして気を回してくれるので、今言ったことは嘘ではなかった。