「へー、結婚指輪買ったんだ。いいじゃない」
「あ、でも悠介は〝間に合わせ〟だって言ってました。私はこれで十分だと思うんですけど」

有沢グループの御曹司が普通に店頭で売っている指輪を贈るなんて、もしかしたら有沢家的にはタブーなのかもしれない。
だから悠介は〝間に合わせ〟と言ったと考えるとしっくりきて、フォローする。

もしも悠介があとで夏美さんから怒られることになったら困る。

ちなみに、ずっと前、〝speme〟に悠介が連れ立ってきた綺麗な女性は夏美さんだったと、交わした会話の中で発覚した。

「オーダーメイドだと時間がかかるしね。でも、一刻も早く柚希ちゃんに指輪を贈りたくてって悠介の気持ちが駄々洩れですごくいいと思う。で、悠介、どんな感じで柚希ちゃんに指輪渡したの?」

ワクワクを隠そうともしない夏美さんが、体ごと前のめりになって聞いてくるので、答え方に悩みながら口を開く。

「あ、えっと、〝とりあえずの間に合わせだから〟って言われただけなので」

夏美さんは悠介の恋路がものすごく気になっているみたいだけれど、あまりネタ的なものを提供してあとで悠介がからかわれる結果になったら私が怒られる。

そもそも、本当の恋人でも夫婦でもないので、夏美さんが望んでいるような甘いエピソードも、歯の浮くようなセリフもない。
でも、新婚夫婦なのにのろけ話がまったくないのも不自然なため、本当に答え方が難しい。

夏美さんからの誘いを軽い気持ちで受けてしまったことを、ここにきて少し後悔した。

悠介の援護なしに私ひとりで夏美さんの攻撃を躱せるだろうか、と不安から背中を汗が流れる。