自分を思い込ませようと頭の中で〝ただの制服〟と繰り返しながら足を進めていると、約束のホテルに到着する。

新幹線も乗り入れる駅を出て数分の場所に立ちそびえる四十階近くある高級ホテルは、有沢グループが世界中を舞台に展開しているもので、宿泊費の高さではもちろん、その行き届いたサービス内容や各部屋に設置された充実した設備は、毎年連休前にメディアで取り上げられている。

ベッドやソファといった家具のデザイン性でも注目を集めていると、土曜昼の情報番組で紹介されていたのは記憶に新しい。
なんか……あまり意識してこなかったけれど、有沢は、本当にあの有沢グループの御曹司なんだなぁ。

出会ってから今まで、有沢は私の中でいたって普通の男性……というより、男子、という印象だった。

高校とか大学で同じ学年にいても、なんら違和感のない普通の男子。気取らないで素の自分でなんでも話せる、口先の喧嘩すらちょっと楽しいと感じる友人のひとり。

それは、有沢自身が家柄を意識させる雰囲気をあまり出さなかったからかもしれないけれど……再会してからの彼からは、隠しきれない空気を感じていた。
会話の内容や風貌、佇まい。動作のひとつひとつが綺麗で優雅で、少しだけ知らない人みたいだ。

まぁ、口を開けば三年前の〝男子〟の面影がそこかしこに残っているのだけれど。

近づいていくうちに入口ドアの横に立つ有沢に気付いて、胸を撫でおろす。
一応、ラウンジ席を予約してあるとは聞いていたものの、こんな高級ホテルにひとりで足を踏み入れる勇気はない。有沢が外で待っていてくれてよかった。